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【亀之物語】 第二章 -憲明回想- その四「パゴン誕生」

パゴン誕生


洋服の生地を染めるようになって数年、当初は順調でした。しかし繊維製品の製造は中国をはじめとする海外が主流になり、仕事は激減していきました。そして気づけば亀富は〝生地プリントの下請け工場〟になっていました。
 しかし「それでええやん」と思えない兄は、いろんなことを試みましたが、先述のとおり失敗の連続でした。でも兄は懲りません。反省もしません。わけのわからん怪しい人物を連れてきて、わけのわからんことをし続けます。それは今も同じで、おそらく兄は〝あの世〟に行ってもそうなんでしょう。 一方〝くそまじめ〟で常識人の私は、宇宙人のような兄のブレーキ役に徹してきたわけですが、そのブレーキがある日あるとき壊れます。それは兄がふとみた書籍から「ハワイの日系移民が着物をつぶしてつくったのがアロハシャツのルーツ」と知ったときのこと。直情径行の兄は私が「あー」も「うー」も言う間もなく蔵入りしていた着物生地の図案でアロハシャツをつくってしまうのですが、そうして生れたのがパゴンの第一作。「渦と立波」図案のアロハシャツです。あれって実は〝お襦袢〟の柄であり、男性が着るには相応しくないのですが兄は惚れ込み、試作品を着て業界の夏祭りに出かけて行きました。当然、業界の皆さんから失笑と冷笑を頂戴するにも関わらず、宇宙人はそんなこと気にしません。その横で常識人の私は気にしていましたが、かつて祖母が業界の皆さんに笑われながらつくった〝真紅の染め見本〟を大ヒットさせたことを想い起こし、黙っていました。その横で皆さんご存知の楢崎が「メンズでは商売になりませんよ。私ら女性はアロハを着ません。和柄でカットソーをつくりましょう!!」と言うので宇宙人は調子にのり、京友禅アロハ&カットソーのブランド「パゴン」が誕生したのでありました。平成十四(二〇〇二)年のことでした。