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【亀之物語】 第二章 -憲明回想- その弐「愛するという言葉」

愛するという言葉


洋服の生地を染め、亀富もなんとかなるめどがつき、着物の染めをやめると決めたのも束の
間、新たな問題が発生します。得意先や業者さんへのお知らせ、着物の染め型の引き継ぎと移動、その間の資金繰り、すべきことは尽きませんでしたが、辛かったのは、そうした多忙ではありません。まだ「リストラ」なんて言葉はありませんでしたが、人員を半分以下に削減しなければ、なんとかなるはずの亀富が、なんともならんことがわかったのです。私が三十八歳のときでした。

これまで亀富を支えてくださった功労者、お一人ずつと話しました。ある方には泣かれました。でも現場の上長に退職勧告してもらったパートの方から、次のように言われました。「憲明さん ・・・・・・ 自分の子を愛するように、私たちも愛して欲しかった。直接、憲明さんに言って欲しかった」

それは私に三人目の子が生れる頃のこと。〝愛する〟という言葉が胸に刺さりました。当時、いろんな会合でお出会いした先輩諸兄に「亀ちゃん、人をクビにでけへんかったら経営者にはなれへんで」と教えられていましたが「そやろか ・・・・・・ 自分の努力がたらへんだけとちゃうんやろか」と思う気持ちも強まるばかりでした。

そんな頃、ある会社の社長さんに「亀ちゃん、山岡荘八の『徳川家康』二十六巻もあるけど読んだほうがいいよ」と薦められ、自称〝くそまじめ〟な私は二回も読みました。ものの見方、考え方、人生観、すべて変わりましたが、徳川家康のちからの源泉が〝愛〟だったと知ったことことが最大の収穫だったように思います。