犬は安産の象徴とされ、現在でも戌の日(いぬのひ)に安産祈願をし、腹帯をさずかる風習が続いています。
犬は安産で沢山の子供を産み、その子達は丈夫に育ちます。この柄は安産、子孫繁栄の意味を込め女性の着物や、犬の可愛さから子供の着物にも使われました。
この犬は手鞠(てまり)と戯れています。
こうした模様の原形は「獅子繍球(しししゅうきゅう)」(日本では「玉取り獅子」と呼ばれる)にあります。雌雄の獅子がじゃれあっているうちに獅子の毛がからみ合い毛玉が出来、その毛玉から子供が生まれるというお話が中国に伝えられています。
ここでは毛玉は鞠として表されています。獅子は百獣の王であり、その子もまた百獣の王になるのです。その獅子の子のように、生まれた子が強く生き抜き立身出世をしますようにと祈念した柄です。獅子と鞠(まり)の組み合わせの柄はこのような意味が含まれていますが、この柄では犬を獅子に見立てて、安産に加えて立身出世をも願っている柄です。
昭和初期には、チンやシーズー犬を飼うのが流行しましたが、薬玉(くすだま)や御殿鞠(ごてんまり)と取り合わせて、婦人や子供の着物模様として喜ばれました。この柄の犬は昔から琳派や円山派などに描かれてきた愛らしい仔犬です。