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浮世絵
浮世絵

この柄は男物の羽織裏の柄です。男物の羽織裏に浮世絵を用いることはよくみられますが、ここでは江戸時代後期(寛政年間1789〜1801)に活躍した浮世絵師、喜多川歌磨呂(きたがわうたまろ)や鳥居清長(とりいきよなが)が描いたような様々の年格好の美人と子供の情景を取り混ぜて描いてあり、江戸町方の風俗を興味深く見せてくれています。
寛政年間は社会的には政治改革や緊縮財政、奢侈禁令(しゃしきんれい)などの締め付けがありましたが、文化的には長く続いた幕藩体制の平和のもとに江戸の都市市民文化が成熟し、武士と町人を中心とする粋(いき)と洒落(しゃれ)の江戸文化が花開いた時代です。

この柄で興味を引かれる見所のひとつは女性の髪型です。
江戸時代の中頃にはほとんどの女性が下げ髪(さげがみ)ではなく、髷(まげ)を結い上げる髪形になっており、髷の形、横髪の鬢(びん)の張り、後ろ髪のつと(たぼ)、にこだわるようになっていました。ここに登場する女性の髪形はこの時期(天明、寛政)の特徴をよく表しており、鬢差し(びんざし)を用いて横に強く張り出させた、髪の一本一本まで透けて見える「灯籠鬢(とうろうびん)」の形式が描かれています。
日本女性の特徴である長い黒髪を美しく結い上げた髪の形は、当時の幅広になっていた帯結びと同様に女性のファッションの重要な見せ所でもありました。

長煙管に煙草を仕込みながら文(ふみ)を見やる遊女は、島田髷(しまだまげ)の一種の三輪髷(みつわまげ)を結っています。その傍らで櫛を持ち、贔屓客(ひいききゃく)からの文(ふみ)らしき巻紙を差し出す新造(しんぞう 若い妹分の遊女)は島田髷です。鬢(びん)の下に髪を垂らしています。
下方には眉を剃り、勝山髷(かつやままげ)丸髷(まるまげ)を結った既婚の女性が座り、傍らにはたばこの火入(ひいれ)と煙草入れが置かれています。蓋(ふた)の火屋(ほや)がついた火入れは本来、金属細工で贅を凝らして大名向きに造られたものですが、武家や高級遊女が使う事もありました。このような火入れ、長煙管(ながきせる)、巻紙の文などは今ではもう珍しい道具となりました。

今日の花嫁さんの髪形の原形でもある娘島田(むすめしまだ)を高く大きく派手に結い上げ、槍梅模様(やりうめもよう)の振り袖に唐草模様(からくさもよう)の帯を締めた町娘の立ち姿が描かれています。
この髪形は、前髪を一旦束ねて二分させ髷の下をくぐらせ後ろに垂らすもので、これは14,5歳の未婚の娘がする初々しい髪形です。
着物のあっさりとした裾模様(すそもよう)、褄模様(つまもよう)も江戸好みの柄付けです。下方にはさらに二人の子供が大名行列の毛槍持(けやりもち)、挟箱持(はさみばこもち)の物まねをする姿で描かれ、手鏡で遊ぶ子供も見られます。
襖(ふすま)には山水画を描き、室内と室外の情景を巧みにつなぎ止めて画面を構成しており、図案家の工夫の後が感じられます。