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滝と扇面
滝と扇面

扇面に百花が咲き乱れた華やかなこの柄は、昭和40年頃の若い女性の着物柄です。近年の柄には古典文様に題材を求め引用したものも多くあり、この柄も江戸時代の小袖の柄を参考にして描いたと思われます。 
縦方向にある帯状の黒い模様は瀧を表しています。豊な水をたたえ流れ落ちる瀧には立波が描かれ、瀧が流れ落ちた下には流水模様が描かれております。扇面には牡丹や菊・藤・菖蒲の花々が華やかに描かれています。

水はよく人生に例えられます。水の流れは悠久です。無限に続き止まる事なく、未来永劫を表します。穏やかな流水、波頭の立つ荒波など人生の浮き沈みを表します。この柄は流水に華やかな花々が描かれた扇が浮かびゆらゆらと流れ、人生の豊かさを謳歌している様子が見て取れます。
牡丹は富貴花とも呼ばれ富を手にする事が出来るといわれます。
菊は不老長寿の象徴の花として日本人に古くから好まれている花です。
藤は日本の山野に自生し風に揺れる花房・気品のある淡紫(うすむらさき)色に強く引かれてきました。
菖蒲は江戸時代以降に多く見られる柄で、勝武・尚武(しょうぶ)にかけてあり武運長久(ぶうんちょうきゅう)を表します。
瀧の中には梅唐草が描かれ、瀧に沿っては菊唐草が描かれています。唐草は実際には存在しない植物です。蔓(つる)がからみ合ってどこまでも伸び、生命力旺盛で無限の発展性を示す事から、長寿延命・子孫繁栄の象徴とされています。唐草文様は仏教美術の文様として日本に渡ってきました。菊唐草・梅唐草などは時代の経過と共に菊や梅などの花と融合させ和様化したものです。
また梅の花も描かれていますが、桜の花が日本人の心を捕らえるまでは梅が最も好まれる花として万葉集にも多く梅の歌が詠まれています。

平安貴族が扇面に和歌を詠み、吉祥花を添え、穏やかに流れる水に浮かべ流して遊んでいる雅な光景を彷佛とさせる柄でもあります。