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格子に桜
格子に桜

『格子』は『格子縞(こうしじま)』とも呼ばれ、縦縞(たてじま)、横縞(よこじま)と同じく『縞』の一種です。縦縞、横縞とともに古くから使われた織物柄の基本で、他の縞文同様、筋(すじ)の太さや数、間隔の変化などにより、様々な印象を与えます。
江戸時代の縞物(しまもの)の大流行と共に多くのバリエーションが生み出されました。細い木を縦横に組んだ格子戸の目のような文様であることから『格子』という名で呼ばれるようになりました。
格子文様には、名前の由来である『格子戸』のイメージから、「何か」を自分の中に留め置くという意味があります。例えば、子供の着物に用いられる場合には、子供の魂を留め置く、抜け出るのを防ぐ、という意味があり、現代のような医療技術がなかった時代に、子供の健やかな成長を心から願った親たちの心情が思われます。
桜は、その昔、豊穣の神の依代(よりしろ)と考えられていました。さくらの「さ」は田の神を意味し、「くら」はその神の依代(座)を意味すると民俗学的には考えられています。春が巡り来て、パッと里山を明るくして咲く桜の花を人々は神の降臨であると考えたようです。日本人にとって、最も親しみのある花と言える桜は、文様としても様々な形で描かれて来ました。この柄には、五弁の花を配しただけの最も単純な形で描かれています。
様々なモチーフで描かれる桜ですが、格子を組み合わせることによって、大胆さと可愛らしさを兼ね備えたモダンな仕上がりで、新鮮さを感じさせる柄構成となっています。
江戸時代に詠まれた「世の中は 三日見ぬ間の 桜かな」という句は、世の中の移り変わりの激しさを、三日見ないうちに散ってしまう桜に例えていますが、満開に咲いていた桜が散ってしまうのは、本当にあっという間です。格子に桜を組み合わせたこの柄には、待ちに待った春の訪れと共に、美しく咲く桜の花を一日でも長く留め置きたいと願う人々の切なる思いがこめられているのではないでしょうか?