龍は、古代中国人が想像した変幻自在の霊獣(れいじゅう)で、文様としても三千年以上の歴史があります。その長い歴史の中で各時代により、その形を変えていきました。殷(いん)・周の時代は蛇形で、漢時代には鱗(うろこ)や長い尾、翼が加えられ、天上の生き物である神獣(しんじゅう)としての姿が定着、その後、元から清までは、天子を象徴する最高位の吉祥柄とされました。
中国の龍文が最初に表れるのは、殷・周時代の青銅器ですが、この時代に描かれた初期の龍は、無足で翼を持たず、くちばしをもつ蛇のような形をしており「虁(き)龍文」と呼ばれます。
その後、戦国時代になると西方の動物意匠(いしょう)の影響で、四足長胴(しそくちょうどう)の獣形の龍が表れて来ます。
この柄の龍を見てみると、四本の足を持ち、胴の長い形が戦国時代の頃に見られたという龍の形と一致しており、龍文の中でも、原形に近い形の龍だと言えます。こうした、古い時代の龍を総称して「古龍(こりゅう)」と呼びます。このように龍は各時代で形を変え、現代の私たちが良く知る、頭に角、胴は大蛇のようで鱗があり、鋭い爪のある四足をもつ「龍」の形に進化していくのです。
龍が色々な形をもつことから、龍は蛇が年月を経て進化したものだ、と考えられたりもしました。蛇が長い年月を経ると龍の最初の形になり、そこから四本足の龍に、さらに角や鱗が出来て天に昇る龍の形になる、というのです。他にも、龍には階級があると考えられたり、龍が九人の子を生んだという話もあります。このように、時代を経るごとに変化を繰り返した龍の姿からは、様々な考えが生まれたようです。
この柄に描かれる龍は、原形に近いこともあり、まだまだ天に昇る力を備えていない成長の途上にある龍です。数百年の後、天上に昇る神獣へと進化していく古龍を描いたこの柄が、現代に生きる私たちの成長を支えてくれるかも知れませんね。