多くの神社や寺院の門前あるいは本殿・本堂の正面左右に置かれている獣形の像を現在では「狛犬」と呼んでいます。狛犬とはライオンが起源とされる想像上の生き物です。
その起源は古代オリエント文明にあります。古代オリエント諸国では、神や王座の象徴としてライオンを用いる流行がありました。例えばライオンの身体と人間の顔を持ったスフィンクスなどは古代オリエントからエジプトに伝わり生まれた想像上の生き物で、王の偉大さを現す神聖な存在とされます。
狛犬が日本に伝わったのは飛鳥時代といわれていますが、当時は獅子として伝わりました。
象徴としてのライオンは古代オリエントから日本に伝わるまでに、インドのヒンドゥー教や仏教を経由し中国にて「獅子」という姿になり「龍」や「鳳凰」といった現実には存在しない架空の生き物と同様の存在となり日本に伝わったのです。
神社や寺院の門前などでは左右に対で置かれることの多い狛犬ですが、獅子として伝わった際にも単独ではなく対で配置することが多かったようです。
その当時は対称性(シンメトリー)が重要視されていたため左右に違いはあまりなかったようですが後に、自然そのものの姿を尊重した日本人には非対称性が好まれ、人が作為的に生み出した左右対称の姿ではなく異なる姿の物を対で配置するようになったようです。
その中で生まれたのが狛犬です。
狛犬とは高麗犬であり、朝鮮半島を経由して伝わったものだからという説があります。
高麗犬という犬種が存在するわけではなく、高麗(こうらい)からきた架空の生き物を日本では犬と思い、獅子とは違う生き物として高麗(こま)の犬と考えたのです。
獅子と狛犬は形を混同したものがありますが、平安時代には明確に区別していたとされており、獅子と狛犬という組み合わせで聖域を守る霊獣として全国に広がっていきました。
左右の違いは、一方は口を開けもう一方は口を閉じているということ。そして口を閉じた方には頭に角(つの)があります。
現在わたしたちが狛犬と呼ぶ像は、口を開けている方が獅子で、口を閉じて角のある方が狛犬なのです。
現在ではウサギやキツネやトラなどの狛犬も見かけます。獅子や狛犬の姿とはかけ離れたものが増え、どちらが獅子でどちらが狛犬なのかも区別がつきづらくなりました。それによって神社や寺院の門前あるいは本殿・本堂の正面左右に置かれている獣形の像を現在では獅子も同様に「狛犬」と一括りに呼ぶようになったのでしょう。
狛犬に「狛」の字が当てられたのは、つまり白い獣=神獣を表すことからだという説があります。
聖域や神様を守る生き物として魔除けの意味合いがあります。
平安時代では獅子との違いなど特徴を持っていた狛犬ですが、現在では魔除けの霊獣という広い意味で狛犬と表されるようになりました。
この柄では狛犬の背景に牛車の車輪を文様化した「源氏車」が描かれています。
車輪は回転することから永続性を表す吉祥文様とされており、厄除けのシンボルである狛犬と一緒に描かれることで、身に着ける人を永久に厄災から守り、穏やかな日々を過ごせるようにとの願いが込められています。