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子犬と汽車
子犬と汽車

昭和初期の男児の着物の柄は「ぼんち柄」と呼ばれ、当時のトピックや流行、西洋の文化が取り入れられたモダンなものでした。この柄の汽車は「シゴイチ」の愛称で呼ばれていた蒸気機関車で、大正の終わり頃から昭和初期に渡って主要幹線を走った主力機関車です。

天皇のために特別に運行される「お召し列車」として大正の終わりから昭和初期にかけて活躍し、まさに子供たちの憧れの乗り物でした。
汽車とともに描かれているのは元気いっぱいの子犬たちです。犬は安産で沢山の子供を産む事から、古来より日本では安産を司り子供を守る神様の使いとして大切にされ、子孫繁栄の意味を込めて女性や子供の着物の意匠として描かれてきました。

この柄は単に犬と汽車の模様に見えますが、もっと深い意味が読み取れます。
犬が紙風船と戯れている様子は、中国の「獅子繍球」にその原型があります。雌雄の獅子がじゃれあっているうちにできた毛玉から百獣の王である獅子の子供が生まれたというお話です。獅子の子供のように強く育ち、立身出世をしますようにと祈願した吉祥柄です。
そして「犬」と所々にあしらわれている「竹」、その文字を組み合わせると「笑」という文字になります。これは江戸時代に流行した「判じ絵」というなぞなぞ遊びからきており、「子供がにこにこと笑顔を絶やさず、若竹のごとくすくすくと成長しますように」という願いが込められています。

当時の雰囲気を色濃く伝えながらも、縁起の良い吉祥文様を組み合わせて、これからの新しい時代を担う子供たちの成長を願ったのでした。いつの時代も子を思う親の心は同じ、その豊かな成長への願いが込められた柄です。