日本において古くから「長寿」や「不老不死」を象徴とされる菊は、奈良時代に中国より薬用として伝来しました。古代中国では菊と長寿を結びつける様々な故事から、菊は不老不死の象徴とされており、「菊の節句」とも呼ばれる「重陽の節句」では菊酒を飲み長寿を願いました。日本においても平安時代には宮中行事として取り入れられ、貴族階級の間で菊の花が尊ばれ、その文様が装束や日用品に多用されるようになりました。
また、菊は天皇家の家紋にも使われることから、「高貴さ」や「気品」の象徴でもあります。彩り菊蔦文様は、菊の美しさに蔦を組み合わせることで、さらに優雅で上品な印象を与えるデザインになっています。これは特に女性用の着物や帯、和装小物などに用いられ、高貴で美しい装いを演出するための柄として愛されてきました。
蔦(つた)は、しっかりと地面に根を張り、他の植物や建物に絡みつきながら成長していく植物です。
この特徴から、蔦は「生命力」「繁栄」「成長」を象徴する植物とされています。また、蔦は絡みつくことで「連続性」や「家族の絆」といった意味も持ち、家族の繁栄や長寿を願う柄として親しまれています。楓によく似た手のひら状の葉と、 蔦を伸ばした茎が美しく、その風情が好まれて平安時代には絵巻物にも描かれました。衣装の文様として用いられるようになったのは、桃山時代以降になってからです。
菊と蔦の組み合わせは縁起が良いため、結婚式、成人式、七五三、入学式などの祝賀の席で着用される着物や帯に使用されることが多く、特に女性の振袖や訪問着など、特別な日に着る着物には菊蔦文様が用いられます。華やかで高貴な印象を与え、幸運や繁栄を願う気持ちが込められた柄です。