同じ種類のモチーフをたくさん取り集めて文様にしたものを「尽くし」と呼びます。「尽くし」は、同じ文様が数多くあることから縁起のよいものともされています。ここでは、さまざまな菊が集められ一つの柄を形作っています。
シンプルな色づかいで表現されたこの柄には、さまざまな形の菊が描かれています。菊は、日本人が長く親しんできた花です。平安・鎌倉時代~江戸時代にかけて日本独自の美意識により菊の品種改良が進んで、さまざまな花姿の菊が生まれました。日本で品種改良された菊は西洋にも伝わり、その美しさは注目の的となります。このときの日本の菊が西洋の園芸育種に大きな影響を与えたと言われるほど、日本の菊のインパクトは強かったようです。
日本の秋を象徴する花でもある菊ですが、中国では菊の葉に滴り落ちる朝露を飲み七百歳まで童子のまま生き長らえたという「菊慈童」の古事から不老不死の象徴でした。日本でも、9月9日は五節句のひとつ「重陽の節句」で菊を用いて不老長寿を願います。五節句は江戸時代に制定されたものですが、平安時代には9月9日に不老長寿を願って酒に菊を浮かべた菊酒を飲む宮中行事が行われていました。このように菊は日本でも古くから延命長寿を表す吉祥文として用いられてきたのです。
吉祥や、形の面白さ、ときには季節感を表すこともある「尽くし」。長寿を示す「菊」を取り集めた「菊尽くし」には、延命長寿や富貴繁栄の祈りが託されています。