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菊花と龍
菊花と龍

現在、日本の秋を代表する花といえば「菊」ですが、もともと菊は日本の在来種ではなく中国から伝えられたものでした。奈良時代に渡来したと考えられている菊は、まず貴族の生活の中に根付いていきます。その後、鎌倉時代~室町時代を経て徐々に庶民の生活にも菊が登場するようになりました。江戸では菊の栽培が盛んに行われ、この時代に日本で菊が独自の進化を遂げたことが窺われます。
中国で「仙花」と呼ばれた菊は不老長寿の象徴として日本でも美術工芸の分野で長く受け継がれるとともに、人々の生活の中にしっかりと根をはっています。
対する龍も、やはり中国からもたらされたものです。4~5世紀に始まった渡来人の帰化による、各種工芸の移入によって持ち込まれたと考えられています。伝来して以降は、もともと日本にあった蛇神信仰と融合しました。古墳などにみられる四神の青竜が有名ですが、他にも水の神として各地で民間信仰の対象となっています。

江の島には、こんな龍の伝説が残っています。
昔、津村(現在の鎌倉市)にある湖に五つの頭を持った龍が住んでいました。この龍は、山を崩し病を流行らせ、洪水、台風を起こしたり、津村の長者の子ども16人を残らずのんでしまうなど、悪行を繰り返していました。あるとき(欽明13年といわれています)海に暗雲がたちこめ、天地が振動してその雲の上に天女が現れました。そして雲が晴れると海面に忽然と島が現れました。これが現在の江の島だと言われています。龍は現れた天女のあまりの美しさに一目ぼれし結婚を申し込みますが、今までの悪行を指摘され断られてしまいます。龍は今までの悪行を反省し、これからの善行を約束して天女と結婚し、その後は人々を守るようになったということです。

厳めしい風貌で描かれることも多い龍ですが、この柄の龍はよく見ると非常にユーモラスな表情をしています。そんな龍の間に散らされた可愛らしい菊の文様。江の島の伝説ではありませんが、かわいらしい菊に一目ぼれした龍が着る人の毎日をそっと守ってくれる、そんな図柄にも見えませんか?