猫が人間に飼われたのはネズミや蛇などの害虫駆除のため、というのがその始まりと考えられています。日本には奈良時代、経典などをネズミの害から守るために中国より渡来しました。愛玩動物として飼われ始めたのは平安時代頃からと考えられており、「枕草子」の「上にさぶらう御猫」というお話には一条天皇と中宮定子が非常な愛猫家であったことが描かれています。今とは違い、もともと猫の数はそれほど多くなかったようで、猫を飼う際には首輪をつけ家の中で飼うのが一般的だったようです。本物の猫が貴重であった江戸の頃には、ネズミ駆除のお守りとして、猫の絵が売られたこともありました。主にその絵を買っていた養蚕農家にとっては、蚕を食い荒らすネズミから守ってくれる猫は一種の守り神的な存在だったのかも知れません。
古い時代には猫の柄の着物はほとんど見ることができず、その後、大正、昭和期に入り、少しずつ猫の柄が使用されるようになっていきます。着物の柄としては少なかった猫ですが、浮世絵では歌川国芳が無類の猫好きとして作品を残すなど、今と変わらず昔から愛される存在であったことがうかがえます。
中国では「猫」の発音が「おいぼれ」を意味する「耄(ぼう)」と同じであったことから、長寿の吉祥文として考えられていました。そこには、人のそばにいて可愛がられ、人の成長を見つめる猫のイメージも影響していると考えられています。また、シルクロードをゆく商船には、ネズミ駆除のために猫が乗っていました。その可愛らしい姿は、長く故郷をはなれることとなった船員たちの寂しさを癒したとも言われています。
このように猫は長きに渡り、世界のあちらこちらで人と生活をともにし、その一生を見つめる存在だったようです。
柄として描かれるとき、猫は丸いものと組み合わされることが多く、まりや鈴、毛糸玉などに戯れ遊んでいる様が可愛らしく描かれます。この柄では、猫が紙風船と組み合わされています。大正、昭和のモダンなテイストでリズミカルに描かれるこの柄は、古くより人の生活の傍らに寄り添い生きる「猫」の愛嬌ある姿を生き生きと表現しています。