歌舞伎十八番のひとつで、華やかな郭(くるわ)を舞台に助六が活躍する「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」の敵役「鬚の意休(ひげのいきゅう)」の衣裳を友禅染めで復刻させたものです。
主人公の花川戸助六(はなかわどすけろく)は盗まれた源氏の宝刀「友切丸(ともきりまる)」を探すため道行く侍に喧嘩を仕掛け刀を抜かせています。助六はついに「友切丸」を持っているのが鬚の意休と見当をつけ喧嘩を仕掛けて刀を抜かせます。鬚の意休が刀を抜く時につけている衣裳がこの「意休の龍」です。
意休の衣裳は中国の影響を強く受けており、京劇(きょうげき)の中にも同じような意匠が見られます。
Point
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「崑崙山」
波間に立つ剣山は「崑崙山(こんろんさん)」という古代中国の神話伝説上の山で、西の果てにあって天に連なる山とされ、天帝の居所や仙人の住まう場所と考えられており、不老不死の薬があると言い伝えられていました。西の崑崙山に対して遥か東の海に浮かぶ仙境が「蓬莱山」です。
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「宝珠」
波間に浮かぶのは宝珠(ほうじゅ)といわれる珠です。
宝珠とは、災難を除き、濁水を清くするといわれ、思い通りになる珠のことです。金銀財宝や望む物を思うままに出す事ができるといわれます。
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「海」
海は宝の源(みなもと)と考えられていました。また、絶えまなく寄せては返す波は永続性を表すおめでたい柄です。
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「珠の雲文」
宙に浮かぶ「珠の雲文(たまのくももん)」は雲の多様な表現の一つで珠のように丸くなって立ち登る雲を表しています。龍は雲を得て天に昇ります。「竜の雲を得る如し」ということわざは、英雄豪傑などが機を得て盛んに活躍するさまをたとえていいます。
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「五爪の龍」
日本の龍は、中国から伝えられたものです。中国において龍は変幻自在(へんげんじざい)の想像上の霊獣です。特に完成された「龍」は漢の高祖以来、帝王を象徴するものとされ宮廷以外では決して使用できないものとされ、五爪(ごづめ)の龍は天子に限り、四爪・三爪は天子一族のものとされました。意休の衣裳に龍が描かれている事から意休は身分の高い人物である事を表しています。
意休は三国志の関羽(かんう)に見立てられているともいわれておりますが、実は助六は親の仇を探す曽我五郎で、意休の正体は源頼朝の命を狙う平家の武将伊賀平内左衛門(いがへいないざえもん)という設定なのです。
歌舞伎十八番とは七代目市川団十郎が得意の演目を家の芸として18種を選び、大切に箱に入れて代々家宝として受け継いできたものです。現在でも得意な芸の事を「十八番」とか「お箱」とか言いますが、その語源はここにあります。