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福良雀
福良雀

この柄は、絵画的な要素の大変強い柄構成となっています。
雀は、人の住む所には大抵生息しており、日常どこででも見かけることから日本人にとって大変馴染み深い鳥です。鎌倉時代に編纂(へんさん)された「宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)」に「舌切雀(したきりすずめ)」の物語が見られることからも、古くから日本人に親しまれた鳥であったことが分ります。季節を問わず目にする鳥ではありますが、他の文様と組み合わさせて用いられ、「稲穂に雀」のように季節感を盛り込んだものが多く見られます。「竹に雀」はもっとも一般的な組み合わせであり、伊達家の家紋にも使われています。

丸まると太った雀の子、または寒気に全身の羽毛をふくらませた姿の雀を「福良雀(ふくらすずめ)」と言います。「ふくらむ」に「福良む」という字を当てて縁起をかつぎました。
雀がとまる松は吉祥柄の代表格で、冬でも緑を失わないことから常盤木(ときわぎ)とも呼ばれ、縁起の良いものとされて来ました。落葉せず、緑を絶やさずに風雪に耐える様は、まさに長寿の象徴であったのです。
中央には白い花が描かれており、春の到来を謳歌しています。
更に目を移すと早蕨(さわらび)が描かれており、早春の風景を描いていることがうかがえます。蕨(わらび)は「万葉集」にも詠まれており、形の面白さから文様としても用いられてきました。
また、単独で描かれるだけでなく、この柄のようにシダ(歯朶)と組み合わせて描かれることが多くあります。シダは一年中青々と茂っており、「歯(し)はヨワイと読み、朶だはエダと読む。エダは長く伸びるので、命が延び長がらえるの意」と古い文献にあるように長寿を念ずる吉祥文様です。

このように春を思わせるモチーフを自由に組み合わせ、春の季節感をふんだんに取り込もうとする作者の意図がうかがえます。早春のある日、春とは言いながら、まだ冬の寒さも残る頃、雀のさえずりが響く中、いっそう清涼な空気をただよわせる山里の早朝が思われます。
吉祥を表す松をとまり木に「福良雀」を描いて「福」を足した、まさしくおめでた尽くしのこの柄。身につければ、普段気付かないほど身近なところにも「福」をみつけられるかも知れませんね。