藤の薄紫色は松の緑とともに高貴とされ、「枕草子」にも”めでたきもの”として書かれています。房状に垂れ下がる藤の花の高貴な色は古くから愛され、有職文様(ゆうそくもんよう)として能装束などにも着られてきました。
また、藤は他の文様と組み合わせて用いる事も多く殊に永久不変を意味する松と、寿命の長い藤を組み合わせた松藤文は吉祥模様とされています。
晩春から初夏にかけて山の斜面に白や薄紫の藤の花房を風にたなびかせた幻想的な風景は遠く古(いにしえ)の物語に思い巡らせてくれます。古事記にあるお話です。大勢の男神(おとこがみ)に求婚されてもなかなか承知しない女神(おんながみ)がおられました。ある兄弟神が女神をめぐって賭けをしたのです。先に女神に結婚を断られた兄神(あにがみ)は弟神(おとうとがみ)に「お前が女神と結婚してみせるなら私の着物と背丈ほどある瓶一杯の酒と収穫物をやるよ」と言いました。弟神は「たやすいことだ」と兄神に言ったのです。弟神は母親に相談しました。母神は弟神に味方し、一晩のうちに藤蔓(ふじつる)で着物と靴を織り、さらに藤蔓で作った弓矢を持たせて女神の家に行かせました。女神の家に着くとみるみるうちに着物や靴、弓矢が美しい藤の花に変わり、それを見た女神は心を打たれ弟神と結婚しやがて子供が生まれたのです。