ひらひらと優雅に舞い春の訪れを感じさせる蝶は、ギリシャ神話や中国の故事、仏教の教えの中にも登場し、幼虫から蛹を経て成虫となるその劇的な変化から、洋の東西を問わず、不死不滅や長寿、輪廻転生、復活や再生の象徴とされてきました。
日本に文様として入ってきたのは奈良時代からで、和様化された平安時代には有職文様として貴族の装束や調度品、桃山時代になると能装束、戦国時代には武士が兜や鎧につけるようになりました。死と隣り合わせの戦場に赴く武士にとって不死不滅の意味を持つ蝶の意匠は大変好まれたようです。
共に描かれているのは秋の草花です。秋の草花は万葉集の頃から詠われており、山上憶良の「萩の花、尾花葛花なでしこの花、女郎花、また藤袴あさがおの花」は秋の七草の発祥といわれています。尾花はススキ、あさがおは近代では桔梗のことともされ、きものでは意匠化しにくい葛よりも不老長寿の意味を持つ秋を代表する花である菊を加えて描かれることが多いです。
春の蝶と秋の草花が共に描かれることで、春から秋、めぐる季節が絶え間なく続いてゆく様子が感じられます。