鯛は名前の響きが「めでたい」に通じることなどからおめでたい魚として古くより日本人に好まれてきました。日本では赤い物や食べ物には魔除けの力があり災いを避ける力があるとされ、鯛は「正月の祝い膳」や「結婚式の引き出物」などの祝いの席に数多く登場してきました。
鯛は平安時代から日本人にとって特別な存在であり、主に貴族の食卓に供された高級魚でした。そのため、鯛は豊かさや高貴さの象徴ともなり、その柄が着物や陶器などに用いられてきました。
美しい姿はもちろん味も一級品であるため、百魚の王ともいわれ重んじられてきた鯛ですが、鯛への注目が一層広まったのは武家文化の影響からといわれています。
諸説はありますが、室町時代には鯛の鋭い鰭(ヒレ)や堅い鱗をもつ姿を、甲冑を身につけて戦う勇敢な武士に重ねて、「戦勝祝い」の願掛けで戦いの陣中に届けられることがよくあったという説があり、また、階級を表す「大位(たいい)」と当て字をしてもてはやされたことで人気を高めていったともいわれます。
江戸時代の中頃から、特に着物の模様として鯛が人気を博し、祝事や祭りなどの際に着用されるようになりました。この時代、浮世絵や錦絵などでも鯛が頻繁に描かれ、庶民の間にも広まりました。また、歌舞伎や能、落語などの芸能にも「めでたい」象徴として鯛が登場し、その存在感は増していきました。
明治時代に入ると、西洋文化の流入とともに新しいデザインや様式が取り入れられましたが、鯛の柄は引き続き伝統的な日本文化の象徴として残り続けます。特に祝い事や縁起物としての価値が再認識され、現代でも着物や和装小物、贈り物の包装などに鯛の柄が用いられており、また「大漁」の象徴として大漁旗のモチーフでもよく見ることができます。
こちらの柄では、そんな縁起物の象徴である鯛を一面に並べた大変おめでたい柄行になっています。
デフォルメされた鯛のデザインの面白さとともに、七福神の恵比寿様のように鯛を身に着けることで、縁起の良い祝福の気持ちを感じていただける柄です。