橋は古代より、この世とあの世、自国と他国、神の国と人間界を結ぶ神聖なものと考えられていました。またその実用性から橋が架けられると不便さの解消となり人々は大いに喜んだものです。
橋の文様で最も有名なものは「伊勢物語 第九段」をモチーフにした八橋で、幅の狭い板を杜若の群生する湿地にジグザグにつないで渡した板橋です。
江戸時代に旅行がブームとなり、名所旧跡の風景が着物の柄として描かれるようになりました。風景文様で有名な近江八景の「瀬田の唐橋」、住吉神社のシンボル「太鼓橋」は形の面白さも相まって多く描かれました。また、住吉神社が和歌の神であることから文芸文様としても描かれました。源氏物語に登場する宇治川の「宇治橋」も文芸文様の中に描かれました。このように橋は単独では描かれることは少なく、名所旧跡や水辺風景模様、文芸文様の中に描かれる事が多い文様です。
ですが、この菊に橋文の柄はそれらと違った模様になっています。
注目するのはその中に描かれている雲です。定まった形のない霞や雲を日本の絵師たちは繊細な感性をもって意匠化しました。
形が定かでないものを線のみで表現できるのは四季の変化が豊かな日本だからこそ、人々が自然の移ろいを肌で感じていたからこそではないでしょうか。雲文は主題を浮き立たせるために必要でないものを隠したり、時間の経過を表したり、場面の転換の道具として重要な役割を果たしています。
菊は延命長寿の象徴であり、梅は高潔な花として先人たちが愛した花です。
この橋は先人の情緒豊かな感性と現代の新しい感性を結んでくれる橋です。そしてこの橋は貴方と私、世界中の人々を結びつけてくれ、世界平和を願う橋かもしれません。