日本の春を代表する花を「さくら」とするなら、秋を代表する花は「菊」でしょう。日本には奈良時代に中国より渡来し、以降「長寿」を象徴する花として愛されてきました。
菊は、その姿から太陽にたとえられ「日精」といわれ、また「百草の王」とも呼ばれました。平安時代から特に文様として好んで用いられるようになったと言います。鎌倉時代、後鳥羽上皇が菊を大変好まれ、衣服はもちろん、車、輿、刀、その他ご自分の身の回りのもの全てに菊の文様をつけられました。その後、この菊文が踏襲され、皇室の紋章として用いられるようになっていくのです。
江戸時代には菊の品種改良が進み、それとともに菊の文様も爆発的にそのバリエーションを増やしていきました。この柄に描かれているような丸型に菊を描いたものは、菊丸文などとも呼ばれます。丸い形が円満さを表し、様々に描かれる菊の文様の中でも愛らしい印象です。丸い花心から花びらが放射状に描かれる形は、太陽にたとえられた菊の姿にも近いのではないでしょうか。内に秘めた力強さも感じられるようです。
菊の下には、植物の葉が敷き詰められています。「百草の王」とよばれた菊だけに、草葉を従えているのでしょうか。草は、どんな境遇でもその根を大地にはる生命力の強い植物として、時に「雑草のように」という言葉で表現されます。どんなことがあっても挫けず生きる力強さを道端の名もなき草に見て、自らの生き方に投影する、そんな言葉です。もしかするとこの柄にもそんな心境が込められているのかも知れません。
敷き詰められた草葉の上に散りばめられた菊の花。この柄からは、内に秘めた情熱で現代社会を力強く生きる、そんなメッセージが感じ取れるようです。