松は四季を通じて緑を保ち、千年の樹齢をもって大木となります。長寿と節操の象徴とされ、古くから松をめでたいものとして捉らえています。
特に孤高の松は天から神霊を迎える依代として神聖視されてきました。現代では少なくなりましたが、年の初め家ごとにたてる門松は神霊を招き寄せるといわれ、その年の神が降臨する神木として松は重要な役割をはたしています。
和様化が進んだ平安中期以降は若松文、老松文、松葉文、根引き松文、磯馴松文など、各々に意味を持たせて松の形を描き分けてきました。
また、常緑の松ですが日本人の感性は松にも季節感を持たせました。
春は松の新芽がまっすぐに高くつき出る「松の芯」を、夏は古い葉が散り落ちる「松落葉」「散松葉」を、秋は色も新しい松かさができる「青松毬」を、冬は庭の苔の保護のために敷く「敷松葉」を、季語として歳時記に記しているのです。
老松文は本来、松の木全体を描いた図柄をいいます。樹齢を経た幹の太さや枝振りの美しさを愛でて、格調高い意匠として用いられてきました。
その代表的な例が能舞台の正面鏡板に描かれた老松の図柄です。大名好みの狩野派様式で描かれた老松の図柄は江戸時代の大名の道具やそれを手本として作られた高級な調度、衣裳の文様に多く使われてきました。そして次第に幹の部分から離れた独特の山形をした枝葉の部分の形が単独で老松文として使われるようになったのです。
この柄の老松文はさらにアレンジされモダンな老松になっています。大正~昭和にかけての女性の普段着として、また、お洒落着として日本全国に普及した銘仙の柄でした。