美しい尾羽根の孔雀が華やかな花々に囲まれて静かに佇んでいます。大輪の花は沙羅をイメージしているのでしょうか。
沙羅はインド原産の「仏教の三大聖木」の一つです。釈迦が二本の沙羅の間に身を横たえ、涅槃に入ったといわれるところから沙羅双樹と言われています。
平家物語の有名な冒頭に「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。」とあります。これが沙羅です。が、日本では沙羅は育ちません。寺院に多く植えられていますが多くは「夏椿」で代用されているのです。京都の妙心寺塔頭 東林院の沙羅双樹ならぬ夏椿は有名です。
孔雀は熱帯地方に棲み、美しい姿をしており、古くから多くの国々で愛されてきました。毒虫や毒蛇を食べることから「人々の災厄や苦痛を取り除く功徳」があるとされて信仰の対象となり、日本では文武天皇のころ、修験道の開祖とされる役小角が、孔雀明王の呪文で神通自在になって、鬼神を従え空まで飛んだと『今昔物語』などに伝えられています。
孔雀明王は人間の煩悩の象徴である三毒(貪り・嗔り・痴)を喰らってその威力によって煩悩を消滅させるとされたのです。また雨を予知する能力があるとされ雨乞いにも用いられました。
仏教と深い関わりがある沙羅双樹と孔雀ですが、この柄は昭和の図案家が鳥と花々の組み合わせに平穏な世を寿ぐ美しい世界を描いています。ですが、その奥には上記のような深い意味があるのです。
禍を取り除いてくれる孔雀と高貴な聖木が貴方を守ってくれることでしょう。