歌川国芳は、江戸時代末期を代表する浮世絵師です。常に数匹~十数匹の猫を飼っており、懐に猫を抱いて作画していたと伝えられ、無類の猫好きとして知られています。国芳の描いた浮世絵にも猫をテーマに取り入れた作品が数多く残されています。
パゴンでは今回、そんな猫を描いた国芳作品の中から歌舞伎をテーマにした2作品を取り上げ、京友禅の世界に仕上げました。
蛸と共に描かれている猫は『流行猫の戯 梅が枝無間の真似』という作品から。歌舞伎「ひらかな盛衰記」四段目の「神埼揚屋」の一場面です。遠州観音寺の「無間の鐘」は、つけば富を得られるが来世は無間地獄に落ちるという。遊女 梅が枝は、勘当された夫のために意を決し、鐘に見立てた手水鉢を打ち鳴らそうとします。この場面を国芳は、梅が枝を猫に、手水鉢はたこに、降ってくる小判は魚の干物に変えユーモラスに描いています。
一方、鏡に映った猫の顔が描かれたのは『猫の百面相』という作品。当時の舞台を彩った役者たちが猫になって勢ぞろいする「百面相」シリーズは、当時、評判になったようです。この一枚には「仮名手本忠臣蔵」の登場人物が描かれています。こちらも、役者が猫の姿で描かれることで、衣裳の柄がナマズになったり、鈴になったりしているのです。
注目なのは、このナマズ柄の衣装を着た猫役者と梅が枝を演じている猫役者が実は同じ人物を描いたものだというところ。どちらも初代沢村訥升(のち五代目沢村宗十郎)という役者の似顔絵なのです。ぜひ見比べてみてください。
日本で猫が愛玩動物として飼われ始めたのは平安時代頃から、と言われており、またシルクロードをゆく商船にはネズミ駆除のために猫が乗っていました。このように猫は古くから私たち人間の生活の傍らに寄り添い生きる存在なのです。国芳の浮世絵からは、今と変わらず愛される存在であった猫の様子を垣間見ることができます。
※歌川国芳『流行猫の戯 梅が枝無間の真似』『猫の百面相』(ギャラリー紅屋蔵) よりアレンジ