日本で蝶が文様として使われるようになったのは奈良時代の頃です。工芸品や織物の意匠をはじめとしてその多くは花や鳥に添えて表現される事がほとんどでした。平安中期以降になって蝶が公家装束の有職文様に取り入れられると、独立した文様として様々な意匠が登場し、その美しさから人気を呼びました。
卵から青虫、そしてさなぎの姿を経て美しい蝶へと変わるその神秘的な様子に、古来より人々は、変化して空に舞い上がる精霊を重ね合わせていました。それは羽を得て天と地を自在に行き来する羽化登仙として、蝶は復活を象徴する生き物とされていたのです。
戦場に赴く武士たちにも蝶の意匠は不死不滅のシンボルとして大変好まれました。特に平氏は蝶を甲冑や陣羽織などの紋章に愛用しており、後に揚羽蝶を家紋としています。また、脱皮をして美しい蝶として舞いあがるところから立身出世に繋がる縁起の良い文様としても好まれました。
また、中国では蝶を「Dié」と読み、これは八十歳を意味する語「耋」と同じ発音であるため、長寿を意味する吉祥柄とされています。春になるとどこからともなく現れひらひらと可憐に舞い飛ぶ蝶を、幻想的な雰囲気で美しく描かれています。