ヨーロッパが原産と言われる「けし」は、日本に伝わった当初は青森県津軽地方で栽培されていました。四月〜六月に花が咲きますが、蕾の時は下向きで、開花と同時に天頂を向き、翌日には散ってしまいます。そして、咲き終わって数日後に「けし坊主」と呼ばれる独特の形をした果実をつけます。若苗、種子は食用となっており、特に種子は「ケシゴマ」と称して、あんパンや七味唐辛子などに使われています。
その美しい花姿と、けし坊主のユーモラスな形は、絵画や工芸意匠(こうげいいしょう)の恰好の素材として用いられました。特に琳派系(りんぱけい)の絵師たちが、その画題として「けし」を取り入れたと言われています。
琳派の絵師たちが活躍した江戸時代は、染色の世界でも友禅染めの技術が確立された頃でもあります。それにより、染色にも絵画的な表現が可能になりました。
この「けし」の柄は、風に吹かれるけしの様子が表情豊かに描かれており、今にも咲こうとしているのでしょうか、頭をもたげて花弁を覗かせ始めた蕾の様子や、葉脈、葉にあいた虫食いの穴に至るまで丁寧に描写されています。
文様としてというよりも絵画的な雰囲気で描かれるこの柄が、着物の柄の一つとして成立したのも、この友禅染めの技法があってこそ、といえるのではないでしょうか