松は千年の寿命があると言い、四季を通して青々と茂り別名を「常盤木(ときわぎ)」とも呼ばれ、縁起の良い木として吉祥柄の代表格です。
中国では風雪に耐え厳しい冬にも常緑を保つ姿に、高潔(こうけつ)な君子の生き方を投影して「竹」「梅」と並び「歳寒の三友(さいかんのさんゆう)」と賞賛します。
また、日本では古代中国の神仙思想(しんせんしそう)と結びつき不老不死の蓬莱境(ほうらいきょう)に生える霊樹の一つとなり、延命長寿の吉祥柄とされていきました。
雪輪(ゆきわ)は樹木に降り積もった端垂れ雪(はだれゆき)を模様化したもので桃山時代頃から文様として登場します。農耕民族である日本人にとって、水は大切なものです。雪が積もるという事は、とりも直さず雪解けの春は水が豊富にあると言う事となり、五穀豊穣(ごこくほうじょう)につながるのです。
ところで、この勢いのある松の描き方は、昭和初期のモダニズムの時代に、当時新流行のスタイルを図案に取り入れて造られたものです。モチーフは伝統的な松と雪輪を扱いながら、力強い筆致(ひっち)を残した松に当時流行の新しさが見られます。強い原色の色彩遣いと、奔放な筆致は19世紀末から20世紀初頭にフランスで沸き起こったフォービズム(野獣派)や表現主義の絵画スタイルに通じるところがあります。