菊と波だけのシンプルな柄です。菊は水と組み合わされ「菊水模様(きくすいもよう)」としてよく用いられます。ここでは波と組み合わされております。
中国では菊は鑑賞用として古くから愛されていますが、それにも増して菊の持つ薬効が珍重されてきました。古代中国では不老長生を理想とする神仙思想(しんせんしそう)が浸透していて仙薬や仙境を求める風潮があり、菊にはその力があると考えられており、菊の薬効についての説話も残っています。
中国の黄河の上流に甘谷(かんこく)という谷川の付近には菊が多く生えていて谷水はとても甘く、菊の滋液を含んでおり、この水を飲んで暮らす山中の人々は皆長寿でした。この説話が後世、日本の菊水模様や謡曲「菊慈童(きくじどう)」の源流になっていると考えられています。
平安時代は重陽節会(ちょうようのせちえ)が宮廷行事となり、菊酒の風習がおこなわれて、この頃より観賞花としても菊が好まれるようになり、文様にも使われるようになりました。以来、菊水の故事と共に延命長寿の吉祥柄として今日まで人々に親しまれてきました。
最近では医学的に菊の薬効が研究されて、中枢神経の鎮静作用や血圧降下作用、各種菌やウィルスの抑制効果があると認められています。(例えば現代の刺身に黄菊が添えられているのは彩り効果の他に、菌の繁殖抑制を期待したものでしょう。)