この柄は昭和50年代の柄です。この時代にはデザインの美しさに重点が置かれています。
しかしながらこの柄は、古典模様(こてんもよう)の組み合わせであり、伝統的な文様からは色々な意味が読み取れます。
柄の中に本がありますがこれは能の台本である謡曲本(ようきょくぼん)です。
能は江戸時代、武家の教養であり、当時の女性の文学的教養を表して女性の衣裳文様にも多くみられます。
蝶は魂(たましい)を運ぶ生き物と言われ、謡曲の中ではこの世とあの世を行き来する生き物として扱われています。松と藤の組み合わさった柄は極楽浄土(ごくらくじょうど)の植物と言われます。こうして見ますとこの世とあの世が描かれた柄と言えそうです。
能はこの世とあの世を取り混ぜて演じられ、ここでは謡曲本に、常磐(ときわ)の天上世界を表す松藤とあの世を、四季のある地上を表す桜・紅葉、そして二つの世界を行き来する蝶を取り合わせて能の描く幽玄の世界を表現しているのです。
現代においてはこのような能の世界は海外でも高く評価される代表的な日本の美意識なのです。