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「富士越龍」アロハシャツ製作ビハインドストーリー

Pagongが一番初めに試みた葛飾北斎のデザインのアロハシャツは「神奈川沖波裏」でした。北斎の描く波の魅力に魅せられ、『怒涛図男浪』のアロハシャツにも挑戦しました。その際に今回お話しをして頂ける塩澤さんが偶然にも小布施に居らしたことをきっかけにPagongと北斎館とのご縁が生まれました。今回は「富士越龍」アロハシャツ製作について、北斎館事務局長でいらっしゃる塩澤さんをゲストにお招きし、Pagong代表亀田との対談の模様をお届けします。

※北斎作品『怒涛図男浪』『富士越龍』の図案作成について信州小布施にある北斎館様に許可を得て、ご協力のもと製作しております。

北斎館とPagongの出会い

Pagong 亀田(以下亀田):
Pagongが生まれた当初は所蔵する着物図案や古布蒐集家の持つ古布を元に図案を復刻していました。先代の時に歌舞伎や能の衣装を元に図案を製作しアロハシャツを作るようになりました。10年ほど前に着物の柄も素晴らしいが、日本人が作ってきた芸術そのものが素晴らしいのではないか。着物柄の良さを伝えることはもちろん、我々日本人の持つ芸術性の高さ、ユニークさを伝えていくにはアロハシャツを通しても良いのではないかと思いました。視野を広げると浮世絵の世界に魅了されました。時代が落ち着いた徳川幕府による江戸時代、260年もの間に多くの芸術が生まれ、歴史の変化、生活様式の変化が浮世絵に残されていることに気づき、葛飾北斎に出会いました。そして代表作である『神奈川沖浪裏』のアロハシャツ製作を始めました。製作を始めてみると驚くことに、木版画で色を重ねて作られる浮世絵と型友禅染めの工程がほとんど同じだったのです。色の数だけ版があり、一枚染めてはまた次のを染めていく。神奈川沖浪裏については、敢えて富士山と小舟を外し、波のダイナミックスに焦点を当てて、連続するリピート柄にしました。10年経った今でも人気のアロハシャツを作ることができました。今思うと私が入社して初めて考案したデザインかもしれません。そして北斎とPagongは相性が良いと思い、すぐに次の作品に取り掛かりたくなり北斎のことをもっと調べました。すると小布施という地が北斎にとってとても重要な場所であったことがわかりました。

北斎館には怒涛図男浪。岩松院には八方睨み鳳凰図。これもまたとんでもな鳳凰が天井に描かれています。

Google Mapで地図を調べていると、岩松院の門前に見たことのある施設名が書かれていました。
「ハウスホクサイ」

当時、World Economic Forumの下部組織に所属していた私はその会でお会いした塩澤さんが関わっていたことを思い出しました。

そしてすぐさま電話したら「岩松院はすぐ前ですよ!」「北斎館も行きましょうか、亀田さん!?」って。

 

北斎館 塩澤さん(以下塩澤):
そうでしたね。その頃は私は北斎館の中で働いていたわけではなく、ハウスホクサイで小布施や北斎の魅力を広める仕事をしていましたね。亀田さんから相談があったときは、Pagongのアイテムは魅力的なものばかりという印象を抱いたので北斎館や小布施の町と繋がりを作るきっかけのお役に立てればという思いでした。結果的に両者を結びつけることができて本当に良かったです。今では北斎館の事務局長として携わっています。だからわかるのですがPagongのアイテムは当館のショップの中でも大変人気があるんです。ショップの良さを際立たせてくれているアイテムだと感じており、当館にとっても重要なものと認識しています。

富士を越えて天に昇る龍 最晩年に描かれた肉筆画

亀田:
2024年の新作を考えていた時に、辰年だから龍のデザインを作りたいと考えていました。そのときに頭に浮かんだのが葛飾北斎の「富士越龍」でした。

「富士越龍」を用いたデザインをPagong内で検討したんです。デザインが概ね固まったタイミングで北斎館の市村理事長を訪ねたところ、快く図柄の採用とシャツのデザインについてご了承いただきました。その際に「Pagongさんならきっと上手く表現してくれるから」と快く許可していただきました。その時に下手なものは作れない…責任感のあるプロジェクトが始めてしまったと少し汗をかいたことを覚えています。(笑)

訪れた際に厳重に保管されている実物を特別に見せていただきました。目の当たりにした瞬間、惹きこまれました。時間を忘れてしばらく見入ってしまいました。信じられない画力の高さに驚きながらも、もっともっと登り続けたい、高みを目指したいという北斎の思いがこの龍に宿ってるんじゃないかと感じ、それを表現しようとあらためて覚悟を決めた瞬間でした。

塩澤:
「富士越龍」は北斎が90歳で描いた作品の一つと言われてます。北斎は90歳まで生涯作品を作り続けていて、最後は肉筆画と言われる手書きの作品を中心に描いていたようです。晩年に描かれたこの作品は北斎にとって思い入れの強い「龍」と「富士山」のテーマを組み合わせて描かれており、富士山に龍が登っている様子はめでたく、エナジーを秘めている北斎館としても一押しの作品です。亀田さんからこの作品でアロハシャツを作りたいという言葉を聞いた時は、どうアロハシャツで表現していくのか本当に楽しみでした。

龍の鱗一つからも滲み出る力強さを表現するために

亀田:
やはり一番難しかったのは、縦長のデザインをどうシルクスクリーンの版にしていくかというところです。縦長なので上と下を切らないといけない。どの部分で切るか、どう配置するかといった構図作りは大変でした。どうしても省いたり、伸ばしたりして北斎が描いた世界感を崩さないように友禅染の型にしないといけない。いくつかの制約の中で工夫しました。
結果、服の前見頃にズームアップした大きな龍がくるようにして、後ろには構図全体がわかり、富士山がしっかり映るようにデザインしました。一つのシルクスクリーンの版の中に大きさの違う二つの龍がいるという構図です。

龍の持つ荘厳さと、富士山と龍の関係性、表現したかった2つを一枚で表現することができました。

また、墨と筆で描かれている作品なので雲のグラデーション部分など、染めの技術でいう「ぼかし」の加減にこだわりました。実物の掛け軸は布のようなものに描かれており、綺麗に墨が滲んでいて大変美しいものでした。このぼかし、グラデーションの表現、ぜひアロハシャツを手に取ってご覧いただきたいポイントのひとつです。

塩澤:
「絹本着色」というのですが、この掛け軸は絹の上に着色している作品なので、墨の滲みが出ていますよね。作品の細かい質感までアロハシャツで綺麗に表現されていました。

亀田:
ありがとうございます。そうなんです。掛け軸のもつ質感、縦と横の糸の凹凸などもしっかり表現したくてグラデーション部分で見えてくるようにデザインしているんです。染めで使用する型の枚数は8版とPagongの他の柄と比べると少ないんですが、色数が少ない中でグラデーションを表現するために型の枚数が増えています。実物を見たとき、龍の鱗一つひとつからもトゲトゲしさというか力強さを感じたので、そこを表現するためのグラデーションでも複数の型を使って染めています。

塩澤:
いや、本当にPagongさんはクオリティに関するこだわりがすごいですよね。完成目前で亀田さんが型の職人さんに「申し訳ないけど、もう一度作り直してほしい」と話していて、Pagongに関わる皆さんのこだわり、強い思いに私も胸が熱くなりました。

亀田:
そんなこともありましたね。やっぱり妥協したくなかったんです。データで見ると出来たように思えたのですが、実際に製版して染めて蒸して、出来上がりを見てみると、ぼかし加減の出来栄えにどうしても納得できなかった。北斎の描いた「ぼかし」を表現できていなかったんです。職人さんたちに申し訳ないけど最初からやり直したいと言ったら、全員が固まってしまい、時が15秒くらい止まりました(笑)。人間って時間を止めることができるのですね。冗談ですが、それでも引き受けてくださり、結果納得いくものができました。シルクスクリーンの型は一度作ったら、今後ずっと残るものなので妥協はできないんです。
その場にいて、関わってくださった方も、最初の出来栄えには思うことがあったと思います。あのやり直しがあってさらにみんなで本気で取り組んだからこそ、このアロハシャツが出来たと思います。

 

北斎を世界へ、そして小布施に

塩澤:
完成品を見たとき、絵全体の迫力や龍や雲の繊細なところまで伝わる工夫されたデザインで、まさに「富士越龍」をアロハにしたものだなと思いました。よくここまで落とし込んだなと感じましたね。

亀田:
そう言っていただけて、嬉しいです。北斎ファンの1人として、国内外問わず同じ思いを持つ北斎ファンにぜひ着てほしいです。あとは「ここぞ!」という場面の勝負服としても着てほしい。北斎といえば「神奈川沖浪裏」が一番有名なので、「北斎=波」の印象が海外でも強いなか、この「富士越龍」でいろんな角度から北斎を知ってもらうきっかけが作れたと思います。

塩澤:
まさにそこがPagongさんとやらしてもらって本当に良かったと思うところです。これからの北斎館の役割は、海外でもメジャーとなった北斎の魅力をいかに伝えていくか、そういった傑作が小布施にあるということを伝えていくかというところです。2024年はイギリスで展覧会をさせていただいたり、2025年はフランスでも、ブルターニュ公爵城で小布施の国際展を開催する予定です。「怒涛図男浪」と「富士越龍」をメインに展示予定です。現地でPagongの服を着ていくと好評で興味を持ってくれる人が多いんです。いろんな形で知ってもらって、最終的には小布施にPagongの服を着てきてくれたら本当に嬉しいですね。

亀田:
良いですね。小布施は本当に良い町です。北斎を中心に町全体で盛り上げようとしていて、いつも刺激を受けています。北斎がまだそこにいるかのような、何かそういうライブ感を感じられる町だと思います。

塩澤:
最後にどうしてもお伝えしたいのは、「怒涛図男浪」と「富士越龍」の売上金額の一部を北斎館の運営費としていただいていることへの感謝の気持ちです。本当にいつもありがとうございます。

亀田:
いえいえ、こちらこそいつも快くご協力いただきありがとうございます。今後もいろんな作品とコラボして一緒に北斎や小布施を盛り上げていきましょう。

 

語:塩澤耕平さん / 北斎館 事務局長
  亀田富博 / Pagong 株式会社亀田富染工場 代表取締役