Voice & Story - Voice from backyard & FAN -

「富士越龍」アロハシャツ製作ビハインドストーリー

Pagongの代表作とも言える葛飾北斎「怒涛図男浪」のアロハシャツ。Pagongにとって「葛飾北斎」は特別な思い入れがある存在です。Pagongは北斎の作品をもとにアロハシャツを制作していますが、信州小布施にある北斎館様に許可を得て採用しています。今回は「富士越龍」アロハシャツ製作について、北斎館事務局長でいらっしゃる塩澤さんをゲストにお招きし、Pagong代表亀田との対談の模様をお届けします。

北斎館とPagongの出会い

Pagong 亀田(以下亀田):
長野県の小布施には、今回お招きした塩澤さんがいらっしゃる北斎館という美術館・資料館があります。この北斎館には葛飾北斎の作品が多く所蔵されていて、実はPagongのアロハシャツを語るうえでとても重要な場所と言えます。Pagongのアロハシャツの中でも北斎の「神奈川沖浪裏」の大波のデザインはとても人気があり、大波以外にもPagongのアロハシャツに採用できないかと考えていろいろと調べていました。そこで塩澤さんに連絡して北斎館を訪れました。塩澤さんとは20XX年ごろからのお付き合い。ひょんなことから知り合うことができて今に至ります。

小布施は北斎が晩年を過ごした地です。岩松院というお寺には「八方睨み鳳凰図」という天井絵が描かれており、それもすごく素敵でした。塩澤さんには北斎館の方や葛飾北斎に関わりのある方を紹介していただきました。その時に許可やご協力をいただいて作成したのが「怒涛図男浪」のアロハシャツですね。

北斎館 塩澤さん(以下塩澤):
そうでしたね。その頃は私は北斎館の中で働いていたわけではなく、すぐ近くの事務所で小布施や北斎の魅力を広める仕事をしていましたね。亀田さんから相談があったときは、Pagongのアイテムは魅力的なものばかりという印象を抱いたので北斎館と繋がりを持たせられたらいいなという思いでした。結果的に両者を結びつけることができて良かったです。今では北斎館の事務局長として携わっています。だからわかるのですがPagongのアイテムは当館のショップの中でも大変人気があるんです。ショップの良さを際立たせてくれているアイテムだと感じており、当館にとっても重要なものと認識しています。

富士を越えて天に昇る龍 最晩年に描かれた肉筆画

亀田:
2024年の新作を考えていた時に、辰年だから龍のデザインを採用したいと思いました。そのときに頭に浮かんだのが「富士越龍」でした。しかしこの作品は掛け軸であり、言わば縦に長いキャンパスに描かれています。だからアロハシャツにするのは難しいと感じたことを覚えています。

でも諦められず「富士越龍」を用いたデザインをPagong内で検討したんです。デザインが概ね固まったタイミングで北斎館の責任者の方を訪ねたところ、快く図柄の採用とシャツのデザインについてご了承いただきました。その際に「Pagongさんならきっと上手く表現してくれるから」と快く許可していただきました。

訪れた際に厳重に保管されている実物を特別に見せていただきました。目の当たりにした瞬間、惹きこまれましたね。しばらく見入ってしまいました。信じられない画力の高さに驚きながらも、もっともっと登り続けたい、高みを目指したいという北斎の思いがこの龍に宿ってるんじゃないかと感じ、それを表現しようとあらためて覚悟を決めた瞬間でした。

塩澤:
「富士越龍」は北斎が90歳で描いた作品の一つと言われてます。北斎は90歳まで生涯作品を作り続けていて、最後は肉筆画と言われる手書きの作品を中心に描いていたようです。晩年に描かれたこの作品は北斎にとって思い入れの強い「龍」と「富士山」のテーマを組み合わせて描かれており、富士山に龍が登っている様子はめでたく、エナジーを秘めている北斎館としても一押しの作品です。亀田さんからこの作品でアロハシャツを作りたいという言葉を聞いた時は、どうアロハシャツで表現していくのか本当に楽しみでした。

龍の鱗一つからも滲み出る力強さを表現するために

亀田:
やはり一番難しかったのは、この縦長のデザインをどうシルクスクリーンの版にしていくかというところです。縦長なので上と下を切らないといけない。どの部分で切るか、どう配置するかといった構図作りは大変でした。結果決まったのが、前に大きな龍がくるようにして、後ろには富士山がしっかり映るようにしたので、一つのシルクスクリーンの版の中に二つの龍と二つの山があるという構図です。

また、墨と筆で描かれている作品なので雲のグラデーション部分など、染めの技術でいう「ぼかし」の加減が難しかったです。実物の掛け軸は布のようなものに描かれており、綺麗に墨が滲んでいて大変美しいものでした。このぼかし、グラデーションの表現、ぜひアロハシャツを手に取ってご覧いただきたいポイントのひとつです。

塩澤:
「絹本着色」というのですが、この掛け軸は絹の上に着色している作品なので、墨の滲みが出ていますよね。作品の細かい質感までアロハシャツで綺麗に表現されていました。

亀田:
ありがとうございます。そうなんです。掛け軸のもつ質感、縦と横の糸の凹凸などもしっかり表現したくてグラデーション部分で見えてくるようにデザインしているんです。染めで使用する型の枚数は8版とPagongの他の柄と比べると少ないんですが、色数が少ない中でグラデーションを表現するために型の数が増えています。実物を見たとき、龍の鱗一つひとつからもトゲトゲしさというか力強さを感じたので、そこを表現するためのグラデーションでも複数の型を使って染めています。

塩澤:
いや、本当にPagongさんはクオリティに関するこだわりがすごいですよね。完成目前で亀田さんが型の職人さんに「申し訳ないけど、もう一度作り直してほしい」と話していて、Pagongに関わる皆さんのこだわり、強い思いに私も胸が熱くなりました。

亀田:
そんなこともありましたね。やっぱり妥協したくなかったんです。その時の出来栄えにどうしても納得できなかった。北斎の描いた「ぼかし」を表現できていなかったんです。職人さんたちに申し訳ないけど最初からやり直したいと言ったら、その場が5秒くらい時が止まりました(笑)。それでも引き受けてくださり、結果納得いくものができました。シルクスクリーンの型は一度作ったら、今後ずっと残るものなので妥協はできないんです。

北斎を世界へ、そして小布施に

塩澤:
完成品を見たとき、絵全体の迫力や龍や雲の繊細なところまで伝わる工夫されたデザインで、まさに「富士越龍」をアロハにしたものだなと思いました。よくここまで落とし込んだなと感じましたね。

亀田:
そう言っていただけて、嬉しいです。北斎のファンの1人として、国内外問わず同じ思いを持つ北斎のファンにぜひ着てほしいです。あとは「ここぞ!」という場面の勝負服としても着てほしい。北斎といえば「神奈川沖浪裏」が一番有名なので、「北斎=波」の印象が海外でも強いなか、この「富士越龍」でいろんな角度から北斎を知ってもらうきっかけが作れたと思います。

塩澤:
まさにそこがPagongさんとやらしてもらって本当に良かったと思うところです。これからの北斎館の役割は、海外でもメジャーとなった北斎の魅力をいかに伝えていくか、そういった傑作が小布施にあるということを伝えていくかというところです。今年2024年イギリスで展覧会をさせていただいたり、来年2025年フランスでも、ブルターニュ公爵城で小布施の国際展を開催する予定で、「怒涛図男浪」と「富士越龍」をメインに展示予定です。現地でPagongの服を着ていくと好評で興味を持ってくれる人が多いんです。いろんな形で知ってもらって、最終的には小布施にPagongの服を着てきてくれたら本当に嬉しいですね。

亀田:
良いですね。小布施は本当に良い町です。北斎を中心に町全体で盛り上げようとしていて、いつも刺激を受けています。北斎がまだそこにいるかのような、何かそういうライブ感を感じられる町だと思います。

塩澤:
最後にどうしてもお伝えしたいのは、「怒涛図男浪」と「富士越龍」の売上金額の一部を北斎館の運営費としていただいていることへの感謝の気持ちです。本当にいつもありがとうございます。

亀田:
いえいえ、こちらこそいつも快くご協力いただきありがとうございます。今後もいろんな作品とコラボして一緒に北斎や小布施を盛り上げていきましょう。

語:塩澤耕平さん / 北斎館 事務局長
  亀田富博 / Pagong 株式会社亀田富染工場 代表取締役