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Pagongの調色、それは緻密な計算の繰り返し

着物の色に魅入られ、染め物の世界へ

子供の頃から絵を描くのは好きで、高校も美術系の学校に通っていました。でも、高校卒業後の進路を考え始めるときまで、染色はあまり興味がなかったんです。先生から紹介してもらった大学のオープンキャンパスに行ったとき、偶然染色コースの卒業制作展が行われていて、展示されていた着物の美しい彩りに魅了され大学で染色について学ぶことを決意。大学卒業後、一度は染め物とは関係ない製造の仕事に就いたのですが、「違うな」と感じて退職しました。そんなときにちょうど、京都の若手職人育成カリキュラムの案内を見つけてすぐに応募しました。そのカリキュラムの中で、Pagongと出会い、縁あって入社することになりました。

先代職人の調色技術を理解するのに苦労

Pagongに入社する前の印象は、店舗や商品の華やかさから大胆で派手なイメージでした。でも、実際に働いてみるとその裏では細かい計算や地道な作業の積み重ねがあり、まさに「職人」の仕事だと感じました。入社してからすぐに色を作る「調色」について教えてもらいました。

仕事の流れとしては、配色の伝票をもとに色作りが始まります。基本的には、先代から受け継がれてきたデータ通りに色を作成していくのですが、入社当時は紙にその全てがまとめられていて先代の感覚込みの内容で書かれているので、作り方自体を理解するまでが大変でした。今ではデータをパソコンに保存して誰が見てもわかりやすくはなったのですが、紙でまとめていたデータの現物は今も残しています。年季が入って、金庫に入っているような門外不出の秘伝のレシピ感がありますよね(笑)。

糊場の仕事は感覚に頼らず、緻密な計算の繰り返し

基本的にはデータ通りに色を作っていくのですが、その時の気候や糊の状態に合わせて細かい調整が必要になってきます。また、同じ色であっても染める生地によって、素材や量の調整が必要です。ほんの少し量が変わるだけで、染めた際に不都合が起きてしまうので、感覚ではなくデータの計算をして緻密な調整が必要です。絵の具を混ぜて色を作るのとは全く別で、後からこの色をちょっと足して修正のようなことができないんです。染料と糊を混ぜて出来上がった色糊の状態では、実際に染めた後の色がわかるわけではないので、過去のデータを参考にしたり、あとは自分自身の技術と経験がすべてです。

これからは自分が色で人を魅了する側に

好きな柄は葛飾北斎の「怒涛図男浪」です。「段落ち」という濃度違いの色を染め重ねることでグラデーションを表現しています。そのため段落ちを多用するこの柄は、一つの色を元に色糊を調合するので、ベースの色がずれると段落ちの色全てに影響がでます。その一色に集中力を注ぐことで出来上がる柄なので、実際に商品になったときやりがいを感じます。

街中でも結構Pagongの服を着ている人を見かけるんですが、そのときも純粋に嬉しいです。着ている柄の色を作っていたときのことを思い出しますね。大変だった記憶がほとんどですが(笑)。Pagongの商品を見て、京友禅の柄の細かさや色の美しさを感じてほしいです。私が学生のとき着物魅了されたように。

語:畑井 / Pagong 株式会社亀田富染工場 調色担当